寒い冬の朝だった。主で雇い主であるニシキが淡々と告げたのは。
「青が盗まれた」
新兵と傭兵はその原因と容疑者の特定にあてがわれ、従者は今年の冬の寒さを心配していた。
作物の収量は例年より低そうで、それから予想できる未来にため息をついた。今日も星が高い。



「おはようございます!」
きんきんに冷えた朝の廊下に元気な声が響く。
ホールとも思える広々とした廊下には影が二つ。
羽のついた帽子を被った傭兵、アガタがそっけなくおはようと返す。
それを受けて、頭部に羽を生やした新兵、タドリは困った笑みを浮かべ、隣に並んだ。


「アガタさんって何時に起きてるんですか?いつも早いですよね」
「目が覚めたら起きるわ、今日は日の出前」
「へえっ?!回収業務もないのに、そんな時間に起きたことないですよ僕」
「そう」
「はい」
「……」


タドリは続かない会話に当惑し、次の話のネタを探し始めた。
いかんせん、アガタという上官はクールでそっけなくてドライで完璧で、タドリは苦手である。
それでも元来の性格、あるいはその経験から、極力親しげに接しようとしていた。
廊下の外に設けられた訓練場にはちらほらと兵士の姿が現れ始めた。
今日の回収を担当する部署だろう、眠そうな顔で各々準備を始めていた。


「―そういえば、最近悪霊の数増えましたよね」
「大穿に近づくにつれて 次回の星落しに支障がでるわね」
「回収追いついて無いんですね」
「頭数が足りないのよ」
「減ることはあっても増えることは―」
そういいかけて、前方に見かけた顔を捉えた。

「ノーザ、おはよう!」
ノーザはおはようございますと口早に返し、それよりも、と続けた。
「ニシキ様が呼んでます、早急にお部屋に来るように、です」
返事も待たずに踵を返し、食堂のほうへ消えていった。
ニシキの朝食の準備だろうか。
ノーザはニシキに陶酔ともいっていい恋心を持った側仕えであり、タドリの同期で、アガタの部下である。


「何でしょうね?」
「通常の用件では無いと思うわ」
「ええ、何でですか?」
「もう少し自分の立場と所属とを考え直したほうが良いと思うわ」
はあ、と白い息すら吐かずにアガタは足早になり、タドリもあわててその後に続いた。


空気は冷たく、きんきんに凍っている。
今日も雪だろうか、空は白く濁っていた。
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